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ご挨拶


   バチカンは皇居の4割程度の面積を有する世界で最小の国家ですが、約2千年にわたる長い歴史と伝統を有するカトリック教の総本山として世界で12億人の信徒に対して大きな影響力を有しています。また、現在では平和の探求、経済開発、人権の確立・擁護、地球温暖化など多くの国際的な課題に対して世俗的な利益にとらわれない「良心の声」として重要な役割を果たしています。


   バチカンを率いる現フランシスコ法王は前法王ベネディクト16世の突然の辞任を受けて、2013年3月19日に就任しました。法王は終身勤めるとの慣例を破り、昨年2月にベネディクト16世がバチカン史上700年ぶりに辞任を表明した時には、驚きをもって迎えられました。コンクラーベの結果、これまで欧州出身者が占めていたポストに初めてアルゼンチンのベルゴリオ枢機卿が選出され、新風を巻き起こしました。新法王は、清貧で知られたアシジの聖フランシスコに因み、フランシスコ法王と名乗り、バチカン宮殿に住むことを辞退、移動も質素な車に替えるなど、華美を嫌い質素を旨としており、カトリック教会は貧者や社会的な弱者などにもっと目を向けなければならないとの姿勢を一層明確にしました。そして時代に則したバチカンに改革するために8人の枢機卿からなる委員会を立ち上げました。フランシスコ法王は、その清貧な生活、極めて気さくな人柄、分かりやすい講話などのために世界中で人気が急上昇しています。また、バチカンはシリア問題などにも積極的に発言し、世界の政治指導者がバチカン詣でを行うなど、その影響力は拡大しています。このため、米国タイム誌はフランシスコ法王を2013年の「年の人」に選出しました。このようにバチカンは今注目を浴びています。


   日本は1942年にバチカンとの間で外交関係を樹立しました。しかし、カトリックとの関係は、1549年にフランシスコ・ザビエルが布教のため来日した460年以上も前に遡ります。当時キリシタンとなった大名も出現し、天正少年使節が1582年に長崎を出帆し、1585年に当時の法王グレゴリオ13世、そして次の法王シクスト5世に謁見しました。また、1615年には支倉常長が法王パウロ5世に謁見しましたが、1587年に関白秀吉の禁教令が出され、取り締まりが徐々に厳しくなりました。徳川幕府は鎖国政策をとりましたので250年以上日本ではカトリックは禁止されましたが、その中でも信仰を守り続けた潜伏キリシタンと言われる方々が、1865年に再び開設された教会に現れたことは、今でもバチカンでは驚きとともに高い評価を得ています。また、日本の開国とともに、明治以降は多くの宣教師などが来日し、医療や教育に従事し、日本の近代化に貢献しました。


   両国関係は極めて良好に推移しており、2013年には森元総理大臣が法王の就任式に出席のためバチカンを訪問し、バチカンから正義と平和評議会議長のタクソン枢機卿が原爆式典に出席した他、ファリーナ枢機卿が法王の特使として上智大学創立100周年式典に出席のため訪日しました。また、バチカンの国際音楽祭に西本智美氏の指揮の下総勢300人以上の合唱団が参加するなど文化交流の華が咲きました。


   日本とバチカンは平和の探求、人権、環境問題、経済開発などで価値観を共有しています。今、そのバチカンは、新しい法王の就任により注目を集めており、その国際的なメッセージ発信力も日々強くなっています。また、バチカンは長い歴史を通じて日本への親近感を有していますし、フランシスコ法王は、若いときに日本に宣教師として赴任することを希望していました。このようなバチカンとの関係を一層強化するために在バチカン大使館は努力していますので、皆様のご理解とご協力を是非お願いします。


駐バチカン市国 特命全権大使

長﨑 輝章



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